東急ストアさま,半七さま

とやまプレミアムストーリー vol.9

朝獲りという付加価値

株式会社東急ストア 水産部バイヤー 小林 梓さん
株式会社半七 高柳 沙織さん

2025.12.05

富山県氷見市で水揚げされた鮮魚をその日のうちに東京で提供。氷見漁港から新幹線輸送によりわずか半日で都内の店舗へ。輸送の調整や温度管理など数々の課題を乗り越え、10年越しで「朝獲り鮮魚」販売が実現。小売業の挑戦と生産者のこだわりが重なり合って、お客様に驚きと喜びを感じてもらう新たな価値が生まれています。

―今回、氷見市の『株式会社半七』にお話をうかがいました。

株式会社半七の皆さま。高柳さんは2列目左から1人目。

―現在7代目社長が率いる氷見の老舗『半七』が、煮干の製造を主軸に創業したのが、大正2年。鋭い目利きに定評があった5代目社長が、煮干製造に加え、自ら早朝の氷見漁港に足を運び選抜した鮮魚の卸売業・加工業に徐々に注力するようになり、現在の業態に進化していったそう。
「お客様からは、『間違いないものを提供してほしい』という要望をいただいています。例えば、鮮度を伝えるために、適宜、魚の切った断面を写真でお見せするようにしました。また、品質の良さは魚の脂質を脂質計で計って『半七』のインスタグラムのストーリーズでも情報公開。興味を持ったバイヤーさんから直接連絡をいただきその要望に応える一つの形として情報発信しています。
インスタグラムアカウント
―高柳さんは6年前から『半七』の事業に従事。それまでは、京都で看護師として働かれていましたが、生まれ育った氷見での子育てを選び、社長である兄・窪田 博晃さんのサポートとして、新しいアイデアを提案・実現し、『半七』の発展に寄与されています。『半七』でのお仕事はいかがですか。
「妹としては正直、及第点に達した兄かどうか怪しい(笑)ですが、社長として、この会社を支え続けてきたことに尊敬しています。小さいころから漁業の仕事は見ていたのですが、実際に仕事を始めてみて、自分の出荷した鮮魚が届いた現場で喜ばれていると実感した時、私は、もっと!もっと!もっと、喜ばれたい、と強く感じました。そして、兄もおそらく同じ気持ちだと感じました。」
―高柳さんが事業に参加されて、新しく取り組まれることは他にもあったのでしょうか。
今までは、社長と大卸との信頼関係で取引を行っていましたが、SNSでの情報発信を私がスタートさせて、私とバイヤーさんとの直接のやり取りが始まりました。こまめなやり取りから、お客様の希望を伺い、好みを把握して適切な情報を提供しています。社長と大卸、私とバイヤー、という2種の販売ルートで卸しています。このほか、お客様への販売案内時に魚の脂質をお知らせし、社長の目利きで大量に競り落としたものの中から、さらに良いものをより抜いて販売する方法など、社長は、私の提案に対して、やってみようと前向きに答えてくれます。「このやり方、おもしろい」「この魚の出し方おもしろい」と言ってくれるので、一緒に新しい可能性を追求するのが楽しくて仕方ありません。私は面白い仕事をしたいし、魚を面白く売りたいんです。高校生が対象の求人説明会でも、『半七は、面白いことが好きな会社です』とアピールしています。
―半七は、4年前から北陸新幹線を利用して、東京・神奈川を中心にスーパーマーケットを展開する東急ストアへ当日朝に水揚げされた鮮魚を輸送しています。新幹線輸送といった、鮮魚の新しい売り方について教えてください。
高柳さん「すでに4年目になりましたが、最初の年は、氷見から東京までの輸送にかかる出発時間の調整や積荷量、運賃等を調整しました。スペースに限りがある新幹線の荷物輸送部分に積むため、載せる分量に配慮が必要でした。通常の箱より大きな、ブリ箱を載せられるところまで調整ができました。9時台に金沢駅を出発するはくたかに間に合わせるためには、6時のセリ終了後、新幹線配送用の梱包をして7時には氷見市を出る必要があります。冬場は積雪のため配送が間に合わずやむを得ず断念することもありました。海がしける日もあるので漁獲量が不足する場合もあります。その際は、前日にバイヤーさんへ、明日は漁獲が少ない可能性があることをお伝えする手間もあります。大変ではありますが、出荷した鮮魚が完売して首都圏のお客様に喜んでいただけていることで、やった甲斐があると報われる思いです。特に、氷見の新鮮なブリを、当日のうちに東京で食べていただけることは価値がある、と私たちも感じています。」
―新幹線輸送で、当日水揚げされた鮮魚を提供する『東急ストア』様にもお話をうかがいました。そもそも、新幹線での「朝獲り鮮魚」を仕入れようと始めたきっかけを教えてください。
コロナ禍の4年前に、一時的に新幹線の利用者が少なくなり、荷物輸送部分で鮮魚を運ぶという取り組みをJR東日本様が開始したという記事を見て、弊社でも独自の仕入れを構築することにで、今まで食べられなかった富山の新鮮な朝獲り鮮魚を提供できるのではないかと考え、スタートしました。「高鮮度・高品質」をお客様へ提供できるという価値が弊社の理念とも合い、他社にはない取り組みは差別化になると考えました。
―富山の「朝獲り鮮魚」に対して、お客様の反応はいかがでしょうか。
小林さん「お客様からは、朝獲りされた富山県の魚は新鮮で弾力があっておいしい!という喜びの声を多数いただいており、富山県産のブランド価値を高く評価されていると実感しています。当社は1都4県で、鮮度・品質にこだわった生鮮食品や店内で作るお弁当・お惣菜などを取り揃えた、地域密着型のスーパーマーケット「東急ストア」や健康・品質・味にさらにこだわった食の専門館「プレッセ」など、お客様の層や地域の特性に合わせて、さまざまな業態を展開しています。富山県の朝獲り鮮魚は、直近ですと、東急ストア中目黒本店、東急ストア都立大学店、プレッセプレミアム東京ミッドタウン店、プレッセ田園調布店の4店舗で販売しています。特に、ぶりや春限定のほたるいか等が人気です。鮮魚は、氷見市の『半七』様からは新幹線で、ほたるいかは滑川市の水産加工業者から航空機輸送で仕入れ、どちらも当日の夕方には店舗に並びます。東京でこの品質を提供できることは、付加価値と感じています。販売は定期的に実施し、お客様へ向けてLINEで告知すると、大きく稼働します。また継続して実施する意義として、『東急ストアに行けば、美味しい魚が買える』というイメージ向上にもつながり、ファンの定着も期待できると考えています」
―当日水揚げされた鮮魚を、夕方に提供するために、どんな流通方法を築かれたのですか。
「初めて新幹線輸送を開始した際は、さまざまな調整を行い、輸送中の氷漏れ予防、温度管理、梱包など鮮度をキープする方法や魚を傷付けない対策を細かく話し合いました。今でも日々改善しながら取り組んでいます。東急ストアは、「鮮度・品質・健康価値の提供」に力を入れて商品を展開しているため、富山で獲れた鮮魚をその日のうちに届けられることは、重要な付加価値になると考えています。鮮魚は店舗へ到着次第、丸魚での販売や、刺身・切身など、旬の時期の食べ方に合わせた加工方法でご提供しています。」
―東急ストアでは、お客様ばかりでなく販売する側の水産部でも驚き・喜びがあるとのこと。従業員の“喜び”とはどういったものですか?
「新鮮な定番の商品はもちろん、普段東京では味わうことができない富山の朝獲りの魚は、お店にとっても大きな価値があると考えています。店頭で従業員がお客様へ直接鮮度の良さを伝える、そのようなお客様とのやり取りが、サービス向上や価値提供につながっていると実感しています。朝獲りの取り組みは今後も継続していきたいと考えています。更には、新幹線という新たな輸送方法により、トラックドライバー不足の問題や、自動車からのCO2排出量の削減に対応したサステナブルな取り組みにつながっていくという側面もあります。」
―生産者である『半七』の高柳さんは…
高柳さん「出荷した鮮魚が『東急ストア』で完売して首都圏のお客様に喜んでいただけていることは耳に入ってきていて、大変嬉しく感じています。」
―魚を取り扱う仕事に愛をもって取り組む高柳さん。富山の農林水産物には、それをつくる生産者の“特別な想い”が込められています。商品の生産に込めた想い、仕事に対する熱い想いが、富山県から多くの場所へ、食材の魅力として伝わっていくことを願ってやみません。一方、『東急ストア』のように、鮮度・品質・健康価値を追求した食を提供するバイヤーに、食材の魅力に加えて、輸送方法の工夫により鮮度保持の付加価値を提供することが可能になりました。富山県では、「とやまの食」新幹線・航空機輸送事業助成を行っています。輸送方法などの条件面を整えることが今後の新たな販路拡大につながっていきますので、活用をご検討いただければ幸いです。