とやまプレミアムストーリー vol.2

富山といえば、昆布。
昆布巻蒲鉾の美味しさを県外へ広めたい。

生地蒲鉾 代表取締役 中陳新平さん

2023.11.29

富山県黒部市にある生地蒲鉾有限会社は、昭和2年(1927)の創業以来、一貫して蒲鉾製造のみを行っている会社です。平成25年(2013)9月から同社の代表取締役を務めている中陳新平さんは、伝統の味や製法などを大切に受け継ぎながら、お客様のリクエストに対応した新商品の開発にも取り組んできました。首都圏の催事に積極的に参加するほか、食材見本市では採用に至った実績があります。そんな中陳さんに蒲鉾への思いや、県外の方々の反応、新たな取り組みなどについてお聞きしました。

ハイグレードなすり身を使い、美味を追求しています。

―代表取締役に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
前職は新聞社で働いていましたが、結婚を機に家業を継ぐことになりました。大阪と富山のかまぼこ屋さんで2年ぐらい修行を積んでから弊社に入り、2009年から蒲鉾作りに携わっています。蒲鉾は、作れば作るほど奥が深い食べ物だなと思いますね。
―代々受け継がれてきた貴社の信条をお聞かせください。
生地蒲鉾の代表取締役は、私で4代目になります。弊社の会長が大事にしているのは、「美味しいかまぼこ」。それを実現するために大事なことをずっと教わってきました。一番の肝は、原料の冷凍すり身です。弊社ではアメリカ産のスケソウダラを原料とした冷凍すり身を使っていますが、そのすり身の中でも最もグレードの高い特注品を使っています。あまり知られていませんが、そのすり身はベーリング海峡で獲れたスケソウダラを船上で捌いて凍結まで行っているので、とても鮮度が高いんですよ。
―「にゃんかま」や「白えび豆かまぼこ」など独自性の高い商品も評判が高いですね。
「にゃんかま」は、猫好きの女性からのリクエストに応えた商品で、猫の肉球のような形をしています。包装の上から触っても、すごく柔らかな弾力を感じることができます。中にクリームチーズを入れることで、おやつ感覚で気軽に楽しめる蒲鉾を意識して作りましたので、若い人にも味わっていただけたらと思っています。もうひとつの「白えび豆かまぼこ」は、富山湾で獲れた白エビ丸ごと1匹を使い、表面を焼くことで白エビの香ばしさを引き立たせています。一口サイズと、食べやすさにも配慮しています。

昆布巻蒲鉾について

「昆布巻蒲鉾」とは、すり身を昆布で渦巻き状に巻き上げた富山ならではの蒲鉾のこと。平成6年・15年には水産長官賞、令和2年には農林水産大臣賞を受賞しました。特に農林水産大臣賞は、年に1回の品評会で約6品しか選ばれません。

―昆布巻蒲鉾の最大の特徴をお聞かせください。
特殊な歯応えです。お客様からも「しなやかな食感だから、あなたのところのかまぼこが好きなんですよ」とよく言っていただきますね。その食感を実現できるのは、すり身に入れる澱粉の量を少なくし、蒸す前に寝かす「坐り」という工程を大切にしているからです。すり身に澱粉を多く入れると、加熱時に固まりやすく短時間で仕上がりますが、澱粉の量が少ないまま加熱すると食感が弱くなります。それを補うために「坐り」という工程を加えることで、弾力のある歯応えやしなやかな食感を生み出しています。寝かす時間は商品によって異なりますが、昆布巻蒲鉾は一晩かけてじっくり寝かしています。
―生産量や製法についてお聞かせください。
年間で最も多く生産している商品は、赤巻蒲鉾です。その次に多いのが、昆布巻蒲鉾ですね。基本的に毎日のように作っています。製造工程は機械化しており、すり身をのせた昆布をローラーでぐるぐる巻いて長い海苔巻きのような形になったものを切断して仕上げています。
―素材や味へのこだわりを教えてください。
これまでの伝統を受け継ぐことを大切にしています。昆布巻蒲鉾の原料は先ほどお話しした特注品の冷凍すり身と、北海道で採れた肉厚で幅の太い昆布を使っています。昆布も最もグレードの高い一等しか使っていません。味付けは塩、砂糖、みりんなどで、ややしょっぱめに仕上げているのが特徴です。甘くはないですね。基本的にはそのまま食べるのが一番おすすめですが、わさび醤油につけたり、焼いたりしても美味しいですよ。ご飯のお供にも、日本酒のおつまみにも最適です。

細工かまぼこで目を引き、昆布巻蒲鉾の試食で商談成立。

―昆布巻蒲鉾に対する一般消費者の方々の反応はいかがですか?
これまでに最も反響が大きかったのは、2020年1月にNHKの全国放送で取り上げてもらった時です。翌日、全国各地からネットにお問い合わせがたくさん届き、売り上げが倍増しました。昆布巻蒲鉾を知らない方にアピールする方法はまだまだあるのかもしれないと思いましたね。
―県外での需要やお客様の声などをお聞かせください。
2023年の8月には東京の百貨店、9月には埼玉の百貨店というふうに関東にある百貨店の催事に出店しました。県外で「富山の蒲鉾」として通用するのは、昆布巻き蒲鉾が一番です。実際に催事では、「富山といえば昆布だよね」と言って買ってくださるお客さんがいらっしゃいました。古くから販売していることもあって、県外での認知度も高まっているのではと思っています。また、東京にある富山のアンテナショップ「日本橋とやま館」でも販売しています。
―西日本最大級の食材見本市「シーフードショー大阪」に出展された時の反応はいかがでしたか?
大阪のスーパーマーケットとの商談が成立しました。以来、昆布巻蒲鉾を含む商品を月に2回お送りしています。大きな細工かまぼこで目を引き、足を止めてくださった方々に試食をしていただくという流れを作っていたことが良かったのかもしれません。昆布巻蒲鉾の試食も行いました。

多様なご要望に応えることで、可能性を広げていきたい。

―現在は、全部で何種類の蒲鉾を作られていますか?
約30アイテムあります。これだけの品揃えを誇っている蒲鉾屋は珍しいかもしれません。昆布巻蒲鉾だけでなく、「にゃんかま」は有楽町にある「いきいき富山館」、「白えび豆かまぼこ」は日本橋とやま館といきいき富山館で販売するなど、首都圏でも展開しています。これからも原料などの大元は変えず、枝葉の部分を変えながら挑戦していきたいですね。
―蒲鉾の新たな可能性に向けて取り組まれていることがあれば教えてください。
道の駅「KOKOくろべ」に、富山県内初の練り天専門店「練り天屋」をオープンしました。きっかけは、大阪での修行時代です。商店街などあちこちに揚げ物や練り物のお店があり、店頭で揚げたてを提供する光景を見て、富山に戻ったら開店したいなとずっと思っていました。そのお店では、ふわっとした食感の揚げたて練り天を販売していますが、その原料も昆布巻蒲鉾と同じハイグレードなすり身を使っています。贅沢な練り天も地元に根付かせていきたいですね。また、真空包装ではなく、簡易包装の昆布巻蒲鉾も地元で食べられる贅沢品です。賞味期限は1週間程度ですが、独特の食感をより楽しめます。
―次にチャレンジしてみたいことなどがありましたら教えてください。
新たに商品を開発することも大切ですが、「にゃんかま」のようにお客様からのリクエストにお応えするのが一番という考えもあります。ですので、バイヤーさんからのご要望にもお応えし、一緒に開発していけたらいいなと思っています。昆布巻蒲鉾も渦巻き状の形にこだわる必要はないと思っているので、何か良いアイデアをいただけたら嬉しいです。

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