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とやまプレミアムストーリー vol.5
富山湾の美味しい海の幸を提供し、
地域と漁業の活性化につなげたい。
遊水会 代表 安倍久智さん(写真右)
2024.11.30
富山市・水橋漁港の漁師達で組織する合同会社遊水会は、2021(令和3)年に漁港のそばで開業した、漁家レストラン『水橋食堂 漁夫』を運営しています。富山湾は「天然のいけす」と称される魚介の宝庫。毎朝水揚げされる様々な海の幸を「もっと身近に感じてもらいたい」という思いで、商品開発や漁師体験などにも取り組んでいます。漁師であり、水橋漁民合同組合の組合長も務める、同社代表の安倍久智さんに、水橋漁港の特徴や今後のビジョンなどについてお聞きしました。
1年を通して漁が行われ、ホタルイカなど様々な魚がとれます。
- ―水橋漁港について教えてください。
- 富山湾沿岸には16の漁港が点在しており、水橋漁港は富山湾岸のほぼ真ん中に位置しています。富山湾の最も深いところは水深1,200m以上あり、変化に富んだ地形と環境から日本海にすむ800種のうち、500種もの魚たちが生息しています。漁場と水揚げする沿岸が近いことも特徴ですね。漁港の近くには水橋フィッシャリーナがあり、天気の良い日は立山連峰から能登半島までを一望することができますよ。
- ―どんな魚がとれますか。
- 定置網によるホタルイカ漁が中心で、年間漁獲高のうち、約8割を占めています。富山発祥とされる越中式定置網漁は魚を傷つけない、とりすぎない、小さすぎる魚を逃がすなど、さまざまな工夫が凝らされた伝統的な漁法です。水橋のホタルイカは、産卵のために海面に浮上してきたメスのホタルイカのみが、産卵を終えて網に入るので、身がふっくらとして、富山県内でもトップクラスの品質だと言われています。ホタルイカの鮮度を保つため、捕獲から1時間半以内に冷水で処理するなど、丁寧で細かい作業を徹底して行っています。漁は1年を通して行われ、ホタルイカ以外にも、アジ、サバ、ヤリイカなど様々な魚がとれます。
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- 遊水会設立の経緯を教えてください。
- 漁師として日々数多くの魚を水揚げしている中で、富山湾の美味しい魚をもっと多くの人たちに食べてもらいたい、漁業を身近に感じてもらいたいという思いが強くなってきました。水橋漁港周辺は飲食店が少なく、地元の人たちから「水橋でとれた魚って、どこで食べられるの?」と聞かれることもよくありました。それなら、新鮮な魚を提供する食堂をつくろうと、地元漁師の有志が集まり設立したのが遊水会です。
「漁師のすり身カツ」について
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2021年10月、水橋漁港のすぐそばの建物で『水橋食堂 漁夫(みずはししょくどう ぎょふ)』がオープン。漁師らのアイデアを凝らしたメニューが評判を呼び、県内外から連日大勢の客が訪れます。オリジナルの商品開発にも力を注いでいます。
- ―開業して3年目を迎えます。反響はいかがですか?
- 飲食店に関わるのは初めてで、苦労もありましたが、周囲の支援のおかげでオープンすることができました。初日から想定の4倍を超える来客があり、現在も平日は地元を中心に、休日は県外からたくさんの方に来ていただいて、社員3名とアルバイト10名で頑張って切り盛りしています。一番人気は旬のとれたて魚介をふんだんに乗せた「海鮮丼」です。メニューは漁師と料理人とで考え、味はもちろん見た目の華やかさにもこだわっています。
- ―各テーブルに置いてある「おさかな図鑑」は “富山のさかなクン”と呼ばれている、富山出身の学生さんによるお手製だそうですね。
- 富山湾の魚が季節ごとにまとめて紹介されていて、イラスト入りなので初めての人にもわかりやすく興味を持って見てもらえると思います。ブリ、ホタルイカ、シロエビ、ベニズワイガニはよく知られていますが、他にもたくさんの魚があることを、料理を味わいながら、知っていただく機会になっています。このような形で応援してもらえてうれしいですし、ありがたく活用させてもらっています。
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- ―「漁師のすり身カツ」をはじめ、オリジナル商品開発にも力を入れていますね。
- イベント出店することになり、戸外で販売しやすくて、水橋食堂らしいオリジナル商品を作りたいと思ったことが、商品開発のきっかけです。「漁師のすり身カツ」はすり身をベースに枝豆、レンコン、ひじきを入れ、ショウガと一味でアクセントを付けて、おかずやおつまみとして幅広く楽しめるような味に仕上げました。イベントでの好評を受けて、食堂のメニューにも追加しました。ホタルイカ商品は沖漬けと黒作り、ホタルイカキムチの3種類。新鮮なホタルイカの旨みを凝縮させたクセになる味わいは、おつまみに最適です。
能登半島地震で要の定置網が大損害
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- ―2024年元日の能登半島地震は、水橋漁港にも大きな被害をもたらしました。
- 漁港の様子を見に来ることができたのは、津波警報が解除された地震の翌日でした。地面に亀裂が入り、港の荷さばき施設は水も出ず、氷も作れない状態。護岸は大きく湾曲して、建物との間に大きな段差ができて、船を揚げるレールは使えなくなってしまいました。
- ―定置網にはどのような被害があったのですか?
- 昨年12月30日に定置網5カ所のうち2カ所で網を整えて、年明け4日にアジやスルメイカを初起こしの予定でした。地震による海底の地滑りで、定置網を固定するいかり(アンカー)が深い場所へと落ちて、すべて壊れてしまったのです。富山湾は浅いところが少なく急に深くなる地形で、水橋の海底は起伏も激しいので。特に主力の一番大きな網が全損したのが痛手でした。
- ―3月のホタルイカ漁解禁まで2カ月と迫るなか、どのようにしてピンチを切り抜けたのですか?
- すぐにアンカーを打ち直すところから着手しました。資材は全部で10tトラック120台分ぐらいはあったでしょうか。荷さばき用の仮施設も必要でした。全力を尽くし、ホタルイカ漁解禁の3月1日までに何とか3カ所の定置網の設置を間に合わせることができ、漁ができたときには心からほっとしました。
体験を通して子どもたちに漁業の楽しさを伝えたい
- ―次のステップとして、どのようなことを考えていますか?
- 以前から行っている定置網漁の見学、漁師体験や地引網体験などのプログラムをもっと充実させていきたいです。魚のさばき方や料理の教室もできるように、水橋食堂の2階フロアを改装することも計画しています。家族連れのほか、団体、学校単位や県外からの修学旅行も受け入れられるような体制を整えていきたいと考えています。
- ―子ども向けの体験プログラムでは、どのようなことを体験するのですか?
- 魚をとる、あるいは、とる真似をするところから始まり、下処理をして、せりに出して、せり落とした魚を買い取り、その魚を自分でさばいて食べるという、一連の流れを体験してもらっています。せりはグループごとにおもちゃのお金を渡して「上限は1万円だよ」と伝え、ゲーム感覚で競ってもらっています。楽しんでもらいながら、漁師の仕事に興味を持ってもらえたらいいなと思っています。
- ―子どもたちへのアプローチは将来の担い手の育成にもつながりますね。
- 日本人の魚離れが進んでいると言われますが、水橋食堂で行っているこども食堂で、お刺身や魚料理を喜んでおかわりする子どもたちを見ていると、決して魚を嫌いなわけではないと感じます。身近なところで魚や漁に触れる機会をつくることで、もっと魚を食べたいという子どもや、将来漁師になりたいという子どもが増えたらうれしいですね。この食堂を拠点とする取組みを、漁師のイメージアップや漁業の活性化につなげていきたいです。
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