バイヤーインタビュー vol.4
名物バイヤーに聞く“地域産品に求めるモノ”
2024.08.21
株式会社大丸松坂屋百貨店 渡邉博文さん
美味しいものを探して全国各地を飛び回る食品ギフト担当バイヤー。クマさんのような見た目で大のスイーツ好き。食に関するテレビ出演や講演、審査員などの経験も豊富。今回はそんな大丸松坂屋百貨店の名物バイヤー・渡邉博文さんにお話を伺います。
- ——渡邉さんはどのようにして食品バイヤーになられたのですか。
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私は1998年に株式会社松坂屋へ入社しました。最初は法人外商部に配属されて、企業用の景品ですとか、ノベルティなど販促グッズを作っていました。成績優秀な従業員さんへの全国産品プレゼントなどもやっていましたから、当時から食品はけっこう扱っていました。
その後上野店に移動してセールスマネージャーとして保存食品やお酒を担当し、銀座店に移って新たにお菓子、生鮮、惣菜。2010年に松坂屋が大丸と合併して大丸松坂屋百貨店になってからは、大丸東京店でレストランや喫茶も経験して、食に関することは一通り全部やりましたね。
2014年からは本社で、食品ギフトの担当バイヤーとして全国各地の美味しい商品を求めて飛び回っています。
コロナ前までは年間200日くらい出張していました。今はだいぶ減りましたが、各地にネットワークがありますから生産者との連絡を密に取り合い、Zoomなどを利用してオンライン商談などをしています。Googleアラートも活用していて、いろいろなキーワードで情報を多方面から仕入れています。たまに気がつくとメールが数万件未読だったりしますが(笑)。
食関連のテレビ番組もできるだけ録画していますよ。でもやはり現地で直接見たり聞いたりすることによって気がつくことも多いので、都合がつけば出かけるようにしています。 - ——大丸松坂屋百貨店についてお聞かせ下さい。
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創業300年余りの大阪・心斎橋を拠点とする大丸と、名古屋・栄を拠点とする創業400年以上の松坂屋がくっついたのが現在の大丸松坂屋百貨店です。それぞれの特徴をひとことで言い表すと、松坂屋は外商が強く、大丸はシステムや効率化に強い。老舗百貨店同士なので親和性があり意外とスムーズに一緒になった感じでした。
現在は、東京、大阪、名古屋、札幌、博多など全国に15店舗を展開しています。2020年にグループ(J.フロント リテイリング株式会社)の傘下となったPARCO(ショッピングセンター)18店舗と合わせ、北から南まで日本全国の主要大都市をまんべんなくカバーしているのが強みです。
百貨店事業が売上げの多くを占めていますが、最近ではグループとして不動産事業や幼稚園などの保育事業も行っています。2022年にはeスポーツ事業へも参入しました。10〜30代の若い世代の関心が高いeスポーツを通じて、次世代顧客へのアプローチも狙っていこうとしています。
他の商品との違いが明確に語れるかが採用のポイント
- ——渡邉さんが求める商品、採用する時のポイントは何ですか。
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大丸松坂屋は老舗百貨店ですので、まず年配の富裕層を念頭に置いて商品を探します。外商顧客向けで高級感があって、珍しいモノなどですね。近年は若年富裕層まで幅を広げて、流行りだしたブランドや、Z世代向けに流行のグミや韓国モノなども求めています。
その店舗の立地によっても取り扱う商品は異なります。例えば東京駅にある東京大丸店はお土産やお菓子が中心といったように、さまざまな世代やターゲット、立地のことなどを考えながら商品を探しています。
現在私が取り扱っているギフトは、日常ではなくハレの日用の贈答品や自分へのご褒美的な商品が主になりますので、同じカテゴリーの商品でも他の商品との違いが明確に語れるかが採用のポイントになります。美味しいことはもちろんですが、この商品が何なのか、その良さや特徴がひと目でわかると良いですね。どこにでもあるようなモノはちょっと……。他との違いを明確にして、まずは見た目で気を惹けると良いです。その商品を買う意味があるかどうかを総合的に判断して採用しています。
(大丸松坂屋百貨店様 カタログギフト『おくに自慢』『GOHOUBI』『大丸夏の贈り物』)
- ——地域産品に対するニーズについてお聞かせ下さい。
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これまでは大都市で流行っているモノを地方で売ることがほとんどでしたが、今はどちらかというと、地域のモノをきっちりと深掘りして東京や大阪、名古屋など大都市圏で売っていこうという流れになってきています。
弊社が取り組んでいる活動に「Think LOCAL(シンクローカル)」というのがあります。店舗を構えている15のまちを中心に、地域の課題などをそこに暮らす人々と一緒に考えながら応援していこうというものです。具体的には、食や文化、そして人といったローカルの魅力を、積極的に店舗やECサイトで発信しています。例えば各店舗で取り扱っている商品をストーリー仕立てにしてご紹介したり、生産者や職人をクローズアップしてインタビューしたり、全国各地から集めてきた選りすぐりの商品の中から、さらに優れた逸品を選ぶアワードも行っています。
まだまだ知られていない地域産品の魅力を全国に広く認知させることでその商品や地域を応援し、販売機会を増やしていこうというのが狙いです。
自分の土地を一度見直してみることが大事
- ——富山県産品についてはどのような印象をお持ちですか。
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全国各地の物産展などを開催すると、やはり北海道物産展が一番売れますが、北陸もとても人気がありますよ。富山は石川に次いで二番手。とくに水産系が強く、白エビ、ホタルイカ、寒ブリなど、きときとな海産物が豊富ですから。
富山県の産品は、地元でとれる素材がまずベースになっていて、そのうえで地域の特性が明確に出ているのが多くていいですよね。先日富山を訪れた時、どじょうの蒲焼きを食べました。美味しかったですよ。骨までバリバリ食べられるのがよかったです。地元の方にとっては、どじょうの蒲焼きなんて何気ない日常の食べ方かもしれませんが、あのような食べ方があるとは今まで知りませんでした。
もっと富山の産品を全国に知ってもらいたいですよね。そのためには、自分の土地を一度見直してみることが大事だと思います。普段地元の方が当たり前のように食べているモノを外の人は知らないことのほうが多いですから。それを掘り起こして“新しい富山の産品”として全国へ認知させ浸透させていけばいいのではないでしょうか。
- ─ 最後に富山県の生産者の皆さんにメッセージをお願いいたします!
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これまで通りいいモノづくりを続けていって欲しいです。その商品をどう価値を上げて売るかは、私たちの仕事です。商品の特性を分かりやすく打ち出したり、パッケージなどの見た目を良くしたりして、それを大丸松坂屋で取り扱いたいです。生産者の皆さんにはいいモノを作っていただいて、それを一緒に育て上げながら我々が売るということを、ぜひ共有してみたいですね。