バイヤーインタビュー vol.5

生産者と消費者とをつなぐバイヤー

2024.11.30

株式会社ビー・ワイ・オー 有馬毅さん

東京駅に連結している新丸の内ビルディング。その地下一階に店舗を構えるセレクトショップ「日本の御馳走えん」には、日本全国から集められた「御馳走」の数々が棚狭しと並び、店内を一周するだけで日本の食の豊かさが実感できます。首都圏の玄関口という好立地の場所に集まる消費者は、いったいどのような商品を求めてやって来るのでしょうか。エリア店長として、また目利きバイヤーとして店舗をマネージングする有馬毅さんに、お客様ニーズについてお話を伺いました。
※日本の御馳走えん 新丸ビル店は、2024年10月31日をもって営業を終了しています。

——有馬さんが全国の食品に興味をもたれたきっかけをお聞かせ下さい。

私は、小学5年生で日本地図が完璧に描けるような都道府県好きな少年でした。また同じくらい高校野球も大好きで、今でも毎年夏になると全国の強豪高校とその都道府県を頭にインプットするほどです(笑)。そんな私が各都道府県から厳選した商品を取り扱うショップの店長をやっているのですから、本当に不思議な縁ですね。

私が勤める株式会社ビー・ワイ・オーは飲食事業がベースの会社でして、入社後しばらくはレストランの厨房で調理をやったり、レストランウェディングの仕事をしたりして総合的に力をつけさせていただいていました。ですが調理のセンスがまったくなくて……、マネージングの部署に異動した後、会社が今の店舗をオープンすることが決まり店長になりました。以来14年が経ちます。

店長として、バイヤーとして生産者の方々と接するうち、日本各地のいい商品を、たくさんの消費者の方に知ってもらいたいと思うようになりました。今年は卸の会社を副業で始めました。

生産者の方達と連携して地方の商品を伝えるイベントなどを積極的に行いながら、商品の価値を高めていくことが目的です。食品を通して地域やヒトが元気になっていければと願っています。

——「日本の御馳走えん」はどのようなお店ですか。

うちの店は、JR東京駅丸の内地下中央口に連結する新丸ビルの地下にあります。全国から取り寄せた1,000種類以上のアイテムを扱うグロッサリーショップで、私たちバイヤーが美味しいと感じて集めてきた国産にこだわった食品を販売しています。

店内には弊社が運営するだし茶漬け専門店が併設されていて、こちらでは飲食ができます。新丸ビルはオフィスビルですので、ランチタイムになると女性客でとても賑わいますよ。ランチの後にお店に寄って買い物する方も多く見られます。また、おにぎりとお弁当を製造して店舗で販売しています。さらにネットショップも運営していますので、私は小売・飲食・製造・ECの4つの部門のマネージングをしながら、バイヤーもこなしています。

お店のテーマは「日常遣いの上質」。日常の暮らしを豊かにし、ずっと食べ続けていただけるような商品を厳選して取り扱っています。無添加のお店ではありませんが、お客様は健康に配慮している方が多く、添加物がたくさん入っているものは売れないので置いていません。

一番の強みは、商品を選んだ者(バイヤー)がお店に立ち、商品や生産者に関する説明をきちんと消費者の方に伝えることができるという点です。

東京駅からのアクセスの良さを利用して、生産者の方が商談や営業で上京される際は、できるだけうちにも寄ってもらって、ご自身の商品を店頭で販売していただくこともあります。地方の生産者が首都圏の消費者と直接接する機会はめったにありませんから、とても好評ですよ。作った本人が実際に売っているのですから、お客さんもビックリ。私たちが説明するよりも断然説得力が増します。店頭の限られたスペースですが、生産者が商品に込めた想いを伝える場として、またお客様からの感想や意見をいただく場として、有効活用してもらっています。こうして生産者と消費者をつなげていくことで、いい商品がさらに増えていくのではないかと期待しています。

——魅力的な産品をどうやって見つけているのですか。

意外なのですが、うちの店の売れ筋商品は、飛騨高山の漬物職人による「ぬか床」です。丸の内のオフィスビルでぬか床? と不思議に思われるかも知れませんが、ファスナー付きのプラスチック袋にすでに仕立ててあるぬか床が入っていて、あとはキュウリやナスなどの野菜を朝に入れておけば、夕方には糠漬けが食べられるという商品。とてもお手軽なので単身者の方にも好評です。

他にも静岡の「いわし削り」もおすすめです。イワシの削り節のコクと旨味は鰹節以上といわれていて、リピート買いのお客様が多いのが特徴。お味噌汁のお出汁としてはもちろん、熱々の卵かけご飯にも合います。納豆やサラダ、麺類のトッピングなどにも最適です。

商品を選ぶうえで私が常に思うのは、削り節だったり、発酵食品だったり、日本人の遺伝子レベルで体の中に入っている味は、いつの時代も誰もがしみじみと美味しいと実感することです。そうした昔からの日常の食、その遺伝子レベルの味はそのままに、パッケージやターゲットを変更し、時代に合わせてアイディアを凝らしブラッシュアップしている商品に出会った時、私はバイヤーとしてキラリと光る魅力を感じます。

——最後に、富山県の産品で気になっているものはありますか。

富山ワインですね。富山といえば日本酒造りが盛んで、美味しくて有名な日本酒がたくさんあるところですが、私はワインに注目しています。実は富山のワイナリーに知り合いがいまして、その方の「富山のワインは地酒だ」という発想がすごく好きで気になっているのです。お洒落なワイングラスで高級に嗜むのではなく、地酒のように日常の生活の中でガブガブ飲むという、そんなスタイルがとてもいいなぁと。

白エビやホタルイカなど、富山湾の恵みと一緒に飲むのも最高でしょうね。富山のワインはまだまだ未知数ですが、これからどんどん認知されていくことを期待しながら、注目しています。

筆者紹介『バイヤーズ・ガイド』編集発行人 永瀬 正彦

株式会社ビー・ワイ・オー
営業促進本部 第一営業部 エリア店長
有馬毅さん

経歴 1997年に株式会社ビー・ワイ・オー入社。飲食店業務に従事し、「菜な横浜シァル店」店長に就任。2010年より「日本の御馳走えん」にて勤務、エリア店長及びバイヤーとして地方の生産者とのネットワークを広げている。
https://gochiso-en.com

※有馬さんが起業された会社情報
miwaya合同会社 (https://miwaya.link/ja/top/
(取材日:2024年7月26日)