とやまプレミアムストーリー vol.1

富山湾の氷見寒ブリを生かして、
富山のおいしさをアピールしたい。

片口屋 代表取締役 片口敏昭さん

2023.08.31

富山県射水市にある有限会社片口屋は、天保元年(1830年)に創業した老舗の味噌・醤油製造販売店です。2019年から同店の代表取締役を務めている片口敏昭さんは、これまでの長い歴史を大切に受け継ぎながらも、富山らしさと独自性を兼ね備えた新たな商品を次々に開発してきました。試食展示会や商談会にも積極的に参加され、採用に至った実績もあります。そんな片口さんに地元食材への思いや、商品に対する国内外の反応、今後のビジョンなどについてお聞きしました。

富山の鰤を使った発酵調味料・加工品の開発に力を入れています。

―片口屋設立の背景をお聞かせください。
天保元年(1830年)、江戸で醤油の修行をしていた初代・片口安之助(やすのすけ)が富山へ戻り、片口屋を創業しました。当時、富山では関西風の淡口醤油が主流でしたが、安之助が初めて関東風の濃口醤油を作り、富山に広めました。この話は、小杉町史などの記録にも残されています。
―近年、どのような商品を開発されましたか?
2014年12月、通常は廃棄される鰤の内臓を原料とした「氷見寒ブリ 鰤醤」を発売しました。その商品を皮切りに、刺身に適した鰤の身・糀・食塩を原料とした「富山湾ブリ 鰤味噌」や、「鰤醤仕立てのバイ貝入り 炊き込みご飯の素」を開発。また、現代は男女共に多忙ですので、家庭で手間をかけずにすぐ使える「片口屋だし」や即席味噌汁「富山湾の白エビ 氷見寒ブリ魚醤のみそ汁」、チャーハンや野菜炒めなどの最後に味を決める「卓上 片口屋だし」も作りました。これらはすべて富山の鰤を使った発酵調味料及び加工品です。
―商品開発への思いをお聞かせください。
富山の鰤を使った発酵調味料や加工品に力を入れているのは、富山の代名詞である鰤を通して富山をアピールするためです。煮干し屋さんや白エビを粉末にしている業者さんなど県内のいろいろな業者の方々と連携して取り組んでいきたいなと考えています。

氷見寒ブリ 鰤醤について

「氷見寒ブリ 鰤醤(以下、鰤醤)」とは、11〜2月ぐらいまでに氷見港で水揚げされる脂の乗った寒ブリの内臓を発酵させた魚醤のこと。日本初の鰤醤として知られ、富山が誇るブランドでもあります。

―鰤醤が生まれたきっかけを教えてください。
これまでと同じように味噌と醤油を販売していても、大手との価格競争になれば勝ち目がないと痛感し、富山らしさに特化した独自性のあるものを求めて情報収集などに努めていました。その流れで2013年に石川県立大学で行われた講演会に参加し、講師の福井県立大学宇多川教授から魚醤の新しい製造方法を聞いたことが、鰤醤開発のきっかけです。講演会終了後の懇親会で宇多川教授に相談したところ、「富山だから鰤で作ってみませんか」と提案され、共同研究が始まりました。教授のもとに毎月のように鰤の内臓を送り続け、約1年後に商品化に至りました。
―共同研究にまつわる苦労はありましたか?
苦労したのは、開発の次の段階でした。従来の魚醤でしたら木桶と塩と魚があれば作れますが、新しい製造方法では鰤を発酵させるためのステンレスのタンクや、油を分離する遠心分離機などが必要です。しかも高額ですので、その資金を調達するのに時間がかかりました。2年半かけて、ようやく自社で作れるようになりましたね。
―一般的な魚醤との違いを教えてください。
新しい製造方法では、遠心分離機で匂いのもとになる油分を分離しているので、匂いがほとんどありません。その後に塩分を調整しながら加えているため、塩分濃度は15%以下と、従来の魚醤に比べて約8%〜10%塩分が少ないことも特徴です。旨味成分においては、タウリン、グルタミン酸、アルギニン、リジンなどのアミノ酸が豊富に含まれています。

展示会で焼き鳥を振る舞ったら大好評でした。

―鰤醤に対する一般消費者の方々の反応はいかがですか?
これまでで一番衝撃的だったのは、2017年2月にNHKの全国放送で取り上げられた日のことです。放送終了直後から問い合わせが殺到して600本程度売れました。後に「魚醤特有の匂いがあまりないからドレッシングとして使ってもおいしいですね」という声もいただきました。他にもさまざまなメディアに取り上げられたことで、県内のホテルや旅館などでも採用されるようになりました。
―展示会での印象深いエピソードを教えてください。
「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」の最終日に、鰤醤を売るために焼き鳥を試食として振る舞ったら、ブースに訪れる人が5倍ほど増えたんですよ。鶏肉は鰤醤にくぐらせるだけでおいしくなるので、多くの方に好評でした。そこで、2023年2月に開催された「シーフードショー大阪」では、初日から焼き鳥を提供したんです。多くの人が来てくださって約200本分試食してもらえました。大成功でしたね。その場で大阪の居酒屋との商談が成立したことも嬉しかったです。また、阪神阪急百貨店での販売も決定しました。
―海外での反応はいかがですか?
シンガポールやマレーシア、香港、中国本土では、鰤醤だけでなく、鰤味噌や鰤味噌豆板醤も少しずつ売れています。2022年には、中国のインターネットサイトにある富山県のブースや、北京のMUJI HOTELで販売してもらいましたが、それなりに売れましたね。こうして外の世界とつながりが持てるようになったのは、富山県や新世紀産業機構などの取り組みのおかげですので、本当に感謝しています。

食品ロスを減らしながら、食としての可能性を探っていきたい。

―品質へのこだわりなどについてお聞かせください。
製造期間は、氷見寒ブリが水揚げされる約3か月間です。その期間内は、週に2〜3回、弊社スタッフが氷見の魚屋さんを何店舗もまわり、鰤の内臓を調達します。今のところ私が製造担当で、その期間は毎週作っていますね。3段階に分けて徹底的に殺菌し、冷蔵庫で保管することで、高い安全性と品質を維持しています。
―鰤醤の新たな可能性については、いかがお考えですか?
例えば、シェフが考案したレシピに沿って鰤醤を使った商品を作り、EC サイトなどを通して鰤醤の活用方法を発信できれば、より可能性が広がるのではと思っています。富山県の補助金制度を活用して、まずは東南アジアを中心に取り組んでいきたいですね。
―環境に配慮された活動も行われているそうですね。
鰤醤を作る時には大量の残渣が発生します。その有効活用を考えていたところ、他社と共同で土壌改良剤を作ることになり、今はいなきび栽培畑の土壌改良に使われています。通常は廃棄される鰤の内臓で魚醤を作り、その製造過程で生まれる残渣を活用していることが評価され、2021年度の「富山県食品ロス・食品廃棄物削減優良活動」の表彰を受けました。今は肥料が高騰していることもあり、廃棄物排出事業者や農家の方々などをうまくつなぐ仕組みを作れたら、廃棄物をより有効活用できるのではないかと考えています。
―次にチャレンジしてみたいことや商品などがあれば教えてください。
今年からは、百貨店の催事に積極的に参加しようと思っています。人口集積地で消費者の方々に試食してもらえれば、バイヤーさんに感触を掴んでいただけるのではないかと。もうひとつ考えていることは、新湊で養殖されているサクラマスとのコラボ。そのサクラマスに弊社の鰤醤麹や鰤味噌豆板醤などで味付けをして百貨店向けに販売しようと思っています。すべて富山産ですから、他社と連携して富山をアピールしていきたいですね。

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