富山の食材
かまぼこ
多様な魚がもたらしたかまぼこ文化
かまぼこは、もともと富山湾で捕れた多種多様な近海魚が原料でした。季節を問わず一年を通して、アジ、トビウオ、カマス、タチウオ、ニギス(写真)、スケトウダラなどの白身の魚が、豊富に漁獲されました。季節の魚を使ったすり身は、魚の種類や大小を問わず、風味に満ちあふれています。魚種、質、量ともに豊かな海の恵みがあったからこそ、独自のかまぼこ文化が育まれたといえます。
近年は水産資源が減少し、その一方で高度な冷凍技術による冷凍すり身が開発されたことから、かまぼこの原料は全国的に変わってきています。魚を取り巻く環境は変わっても、多種多様な魚から作られたすり身のうま味を昆布によって引き出し、また色彩を施すことで見た目も楽しむ富山のかまぼこ文化は、これからも受け継がれていくことでしょう。
「婚礼かまぼこ」にまつわる習慣
富山では、婚礼の引出物として持ち帰ったかまぼこを切り分けて、親戚縁者や近所に配る習慣があります。結婚式は参会者の承認を得る場であり、引出物をおすそ分けするのは、承認の輪を広げるという意味があります。できるだけ多くの承認を得ることで幸せがより深まるとあって、婚礼の際には鯛、鶴亀、富士山など縁起物をかたどった大型のものが引出物として好まれてきましたが、最近では持ち帰りの際の便宜が計られ、婚礼かまぼこは小型化している傾向にあるようです。
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板がない「巻きかまぼこ」
富山のかまぼこは「板」がないのが特長です。すり身を板の上に盛りつけて成形する「板かまぼこ」に対して、富山のかまぼこは、すり身を板状に伸ばした後、だし巻き卵のように巻いたものを蒸して仕上げます。なかでも、赤や青に着色した薄いすり身と一緒に巻いて、断面に鳴門巻きのような模様ができる「色巻きかまぼこ」が普及しています。
巻きかまぼこは、すり身を昆布で巻きこんだ「昆布巻きかまぼこ」が起源と言われます。江戸時代後期、北前船によって運ばれた昆布で、ニシンなど甘く煮付けた魚を巻き込む「昆布巻き」が富山で広く普及しました。この一種として、魚のすり身を昆布で巻いて蒸した「昆布巻きかまぼこ」が生まれ、そのバリエーションとして「色巻きかまぼこ」が作られるようになったと言われます。 このような経緯から、県内の食品売場では、赤と青の色巻き、そして昆布巻きの三色を並べで販売される光景がよく見られます。
引出物の定番「細工かまぼこ」
富山のかまぼこについて、もうひとつ注目されるのが「細工かまぼこ」です。色づけをしたすり身を鯛、鶴亀、松竹梅などに成形したもので、主に婚礼の引出物として使われます。
これは、祝いの席の縁起物として重宝される鯛が不足した際に、かまぼこで代用したことにルーツがあるとされます。本物の鯛は切り分るわけにはいきませんが、かまぼこは頭や尾を切り分ることができ、かつ日持ちがします。当初は代用品だったかまぼこですが、持ち帰りを前提としたものへと発展し、次第に祝いの席で引出物の定番となったと考えられます。
細工かまぼこは、柔らかく練ったすり身を絞り出す独自の技法によって、職人がひとつ一つを手づくりしています。県内には細工かまぼこ体験や見学ツアーを実施している事業者もあり、好評を得ています。