その男は、
鮎釣りをこよなく愛すサラリーマンだった
取材にあたり、指定された場所は神通川上流方面の橋の下だった。当日、目の前に現れたその人に、驚いた。まるでアスリートのように見えたからだ。身体が引き締まっているからだけではなく、その出で立ちがファッショナブルでスポーツマンのようにクール。これから漁に向かうような雰囲気ではない。「見た目も大事でしょ。若い人たちにも気軽に楽しんでほしいので、ライトスタイルも推奨しています」と笑った。
その人の名は金田準(ひとし)さん。本業はサラリーマン。平日は、サラリーマンとして働きながら、鮎のシーズン中は、休日のほとんどを鮎漁にあてている。鮎釣り歴は20年。大手釣り具メーカー主催の鮎釣りの全国大会で優勝経験もある凄腕の持ち主である。
「鮎を大切に扱いたい」という思いが、
「友釣り」という、こだわりに
鮎には「友釣り」「毛鉤(けばり)釣り」「コロコロ釣り」など様々な釣り方があるが、金田さんは一貫して友釣りにこだわっている。鮎は縄張りに入った侵入者を攻撃する習性をもっている。友釣りとは、その縄張り行動を利用した釣り方である。釣り糸にオトリ鮎をつけて泳がせ、鮎の縄張りに侵入させる。鮎がオトリ鮎を追い払う際に、オトリ鮎に付いている掛け針にかけ釣り上げる。
「鮎の体を、できるだけ大切に扱いたい」と金田さんは言う。一匹一匹、丁寧に釣る。網などでまとめて獲る漁法と比べると、鮎にできる傷は少なくてすむと言う。友釣りの魅力を話してくれる金田さんを見ていて「あ、この人はきっと、鮎との対話を純粋に楽しんでいるな」と感じた。何と言うか「さて、俺は次はこうやってみるが、鮎よ、お前はどう動く?」と、鮎との駆け引きを楽しんでいるような…。友釣りとは「鮎と友になる」という釣り方なのか…、ふとそんなことを思った。
必要な時に、必要な大きさの鮎を必要な数だけ獲るというプロ
金田さんは料亭などからオーダーが入ると、必要に応じて鮎を釣って届けている。鮎釣りは、当然のことながら難しい。よく釣れる時間帯が比較的短いし、天候にも大きく左右される。雨の日が続けば河川の水量が増し、川の中にも入れない。水の濁りも漁に大きく影響する。川によっても、また同じ川でも上流か下流かでサイズが異なるし、味も違う。そのような条件下で、たとえば「今日の夜までに鮎20匹お願いします。サイズは16㎝〜14㎝で」などいうオーダーが入るらしい。
しかしそのような無理難題に応えてしまうところが「プロ」である金田さんなのだ。天候や時間をみて「条件に合う鮎はどこにいるか?神通川か?庄川か?何時に釣ればいいか?」などを瞬時に考え、行動に移す。しかもできるだけ鮮度の高い鮎を届けられるよう、クーラーボックスには地下水で作った氷水をたっぷり使う。運搬中に鮎が冷水をたっぷり飲み、鮮度を保つことができる。プロは、一つ一つのことに対して、実にぬかりない。
鮎釣りファンにとって、神通川は全国的にも憧れの存在
「神通川の鮎は美味しい」それは全国的に有名らしい。理由はいろいろあるようだが、代表的なこととして水質の良さがあげられよう。北アルプスや飛騨山脈を水源とし富山平野へと流れる川の水は、ミネラル分が豊富。鮎の餌となる良質な苔が水中に生えやすい環境にあると言える。また神通川の鮎は、背びれの下の筋肉が発達していると言う。川の流れが速く、下流から上流に向かって遡上する際の運動量が多くなるため、筋肉量も増えるのだ。実際、他の川で獲れた同じ大きさの鮎と比べると、神通川の鮎のほうが重いことが少なくない。
過去を遡れば、1999年に高知県友釣連盟が行った「第2回清流めぐり利き鮎会」で、神通川の鮎は日本一に。翌年は準グランプリになった。
「神通川の鮎は、日本中のどこにも負けない。実際他県から数多くの釣り人たちが鮎を求めて神通川にやってきます。だから私は思うんです。いつかはブリと同じように、神通川の鮎を県を代表するブランド魚にしたい」金田さんは誇らしげに胸を張った。
優れた水質で育まれた庄川の鮎
砺波市内を流れる庄川沿いに建つ「鮎や」は、鮎料理専門店。3月上旬から11月末まで鮎料理を提供している。店内の大きな生け簀には、庄川の伏流水で育てられた鮎がいっぱい。身だけでなく頭も骨も柔らかくて香り高く、味もしっかりしているのが特徴だ。
「庄川の鮎に川魚特有の臭みがないのは、川の水質が良いから。川で育つ苔も質が上がるので、それを食べる鮎もおいしくなります。庄川の水は富山湾に流れ込むため、富山の海の魚のおいしさにも貢献していると思います」そう話すのは、同店の支配人を務める山田匡輔さん。幼い頃から料理が好きで、小学生の時には家庭科で習った料理を家族に振る舞っていたという。中学生で料理人の道に進むと決めた山田さんは、いつしか夢を現実にし、今の立場になって20年の歳月を経た。支配人になっても、日々焼き場に立ち続ける現役の料理人なのである。
イタリアンで、富山の鮎の新たな魅力を提供
鮎は、焼きや揚げなどいろいろな調理法で楽しめる食材だが、基本的には和食として提供されることが多い。
「もっといろいろなジャンルで鮎を使ってほしい」と常々思っていた山田さんが今回考案してくれたのは、イタリアン風の「鮎の昆布じめのカルパッチョ うるかソースと庄川ゆずで」生きたままの鮎を背越しにぶつ切りする「鮎のそろばん」など和の技術を生かして、洋にチャレンジした逸品である。ジャンルの壁を越えるだけでなく、鮎の刺身を昆布じめにし、鮎の内臓を塩漬けした珍味・鮎うるかと地元のゆずを組み合わせてソースを作るなど、富山らしさ、砺波らしさを全面に強調していることも特徴だ。
「地元の食材を使って、地元を愛し愛される店にしていきたいです」と話す山田さん。1990年の開業で今年30周年。地元に根付いてきた「鮎や」だからこそのアイデア料理といえよう。
「焼き」を追求し、さらなる高みへ
「鮎や」では期間限定で鮎の食べ放題メニューを提供している。鮎の食べ放題のシーズンには、多い時で1日3,000〜4,000本もの鮎を焼き上げる。「焼きは、火の通り加減の見極めが大事」と、鮎の大きさや体長などによって焼き方を微調整し、香ばしい鮎の塩焼きに仕上げていく。焼きの技術に関しては絶対的な自信を誇る山田さんだが、「年々、技術が向上し、見えなかったことが見えてきます。これからもまだまだ見えてくるものがあると思います」と、常に自分に厳しくストイックに、技に真摯に向き合い続ける。休日もお店に来客の顔を見に来るなど、鮎のことを忘れる日はない。根っからの料理人が、次に見る景色で生み出す料理はどんなものなのか、実に興味深い。
※こちらのメニューは、通常提供されておりません。